丹野智文 認知症と生きる⑯

丹野智文 認知症と生きる⑯

おはよう21 2017年3月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
偏見はどこにある?

制度のはざま

認知症当事者同士や、その家族の間で共感を呼ぶ話題の一つに、制度申請の際の苦労話があります。私自身も、診断以降、病院や行政の窓口でいろいろな経験をしました。
退院翌日、公的な支援を求めて行った区役所で、「40歳未満は介護保険が使えないので何もない」と一蹴されたのは、連載第5回でお伝えしたとおりです。
会社での業務内容は営業から事務になったので、給料は当然少なくなります。今後の生活を考えると、どんな制度が使えるか気になって、インターネットで調べたりしていました。
主治医から紹介されて病院の相談室にも話を聞きに行きました。障害年金が初診から1年半経たなければ申請できないことは事前に調べていたので、今の時点で使えるものがないか相談員に尋ねますが、結局、どの制度も私には当てはまらないことを再確認しただけでした。

対応への違和感

診断当初に一番頼りになったのは、家族の会での情報でした。新しい人が来ると、使える制度を申請したかを確認してくれ、どの窓口に行けばいいかなどを具体的に教えてくれるのです。
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)と自立支援医療*に関しては、自分で調べたうえで家族の会で更に詳しく教えてもらったので、病気とわかった半年後、申請可能になった段階ですぐ取りにいきました。
*障がいのある人の医療費が、1割負担になる制度
窓口で「手帳を申請したい」と伝え、受付けてもらったのですが、「何か忘れているな…」と感じました。自分の手帳のメモを見直すと、“自立支援医療”と書いてあったので、再度窓口で尋ねました。
「自立支援医療もここで申請できるんですか」「ああ、できますよ」。あっさりした返事に、「ここでもし忘れたまま帰っていたら、また来なければならないのに…」と、怒りを覚えました。
手帳を申請した人に、「自立支援医療の申請は済んでいますか」と、ひと言聞いてくれてもよいと思うのです。月々の医療費、薬代は相当なもので、自立支援医療は私にとって必要なものでした。
1年半が経ち、障害年金のことで行った区役所の年金課の対応は更にひどいものでした。
窓口の女性に「若年性アルツハイマーなのですが、障害年金ってどうなるんでしょうか」と尋ねると、別の年配の男性職員が出てきて「本当に病院で診断されたんですか?」などと聞きます。障害者手帳を見せ、ようやく障害年金のことを教えてもらったのですが、そのとき、その人が言ったのです。「何で認知症になったの?」と。
「何で?そんなのこっちが聞きたいよ!」と、本当に嫌な気持ちで、「もうここに1人では絶対に来ない」と心に決めました。

偏見は自分の中に

ほかの当事者や家族からも、制度申請の窓口での対応の不親切さ、病気への偏見や無理解に立腹した話はよく聞きます。そうした、社会に存在する認知症への偏見を実感する一方で、「本当の偏見は、どこにあるんだろう?」と考えさせられる場面にも、私は多く出会ってきました。
県内で講演活動をするようになってから、小学校、中学校でも何度か話をしたのですが、そこで小学生から出てくる質問は本当に素直なものでした。「できなくなった趣味はありますか」「今日食べたことを忘れましたか」。印象深かったのは、「認知症になってよかったことはなんですか」という質問です。
そう言われて、あらためて考えると、家族と過ごす時間も増えたし、営業スマイルをしていた頃より本当の笑顔も増えたかもしれない。悪いことばかりじゃないなと思えて、その質問から着想を得て、「認知症になってよかったこと」をテーマに講演したこともありました。
活動を続けるうち、長女の同級生が通う高校から、講演依頼を受けました。自分の病気のせいで娘に嫌な思いをさせないかが心配で、そのときは長女に相談したのです。「あそこの高校に友達がいるよね?」「いるよ」「パパ、そこで講演をやろうと思うんだけど」「別にいいんじゃない」。長女は知られても構わないという態度で、ごく自然でした。
その様子に、「娘よりも、自分のほうが認知症に対する偏見をもっていたんだな」と実感しました。子どもが嫌な思いをしないかと心配する。その心配の根っこにあるのは、結局、自分自身のなかにある認知症への偏見でした。
自分に偏見があるからこそ、「周りにどう思われるだろう」「何か言われるのでは」と怯え、病気を隠したいと思う。けれど、数年間病気をオープンにして暮らしわかったことは、実際には偏見にさらされるようなことはなく、むしろ多くの人が助けてくれるということです。
周りの当事者で、差別的なことを言われた経験がある人も確かにいます。私ももしかすると何か言われたこともあったのかもしれませんが、前述のように気にしなくなったので、覚えていません。
小学生の子どもたちと娘に、偏見は自分のなかにこそあると、教えてもらったのです。
生22-1058,商品開発G
丹野智文さん

丹野智文さん

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